報告書を遅延させない!-内部監査のタスク管理-

はじめに:納期管理の重要性

システム開発や新規事業開発などのプロジェクトでは、いわゆる「QCD」を管理します。監査案件も一定の期間作業を行いアウトプット生産する有期の業務であるため、一つのプロジェクトといえます。

  • Quality(品質):成果物・パフォーマンスの品質マネジメント
  • Cost(コスト):費用のマネジメント
  • Delivery(納期):予定した期間内でプロジェクト目標を達成・完了させる納期のマネジメント

監査法人やコンサルティング会社が行う監査業務やレポーティング業務は、業務委託契約などで契約期間や納品期日が規定されているため、これに間に合わせるための納期管理は絶対的に重要です。

しかし個別の内部監査は年間監査計画に基づき実施されますが、あくまでも社内業務の一つであるため、多少の期日遅延は許容されがちです。ですが、内部監査においても本来「納期を守る」ということは以下の理由から重要と考えます。

監査報告の価値が下がる

監査が遅延すると、計画や予備調査時点で確認した事実が最新の状況と合わなくなってしまうことがあります。例えば、組織体制の変更・業務プロセスの見直し・システム改修・サービスの改廃等です。

この場合、実態と合わない過去の問題を指摘したり、逆に最新の環境での問題を見つけられない等の事態が起こり、監査報告の価値が大きく下がります。

予定を大きく超過した案件での講評会における、「何をいまさら・・」という関係者の冷ややかな目線は、相手が全く正しいため内部監査人にとっては辛い瞬間になるでしょう。

被監査部門の負担となる

通常業務をしながら対応する被監査部門にとっては、「監査が早く終わる」ことは当然望ましいことです。

監査の遅延により対応が長期化することは単純に工数的な負担であるとともに、拘束感が消えないことによる心理的な負担になります。

さらに、監査が長引くにつれ過去のヒアリングやメールのやり取りで確認した事実の再確認が必要になるに至っては、記憶の面からも負担が大きく、相手の業務に大きな影響を与えてしまいます

被監査部門の信頼を失う

計画時点で提示したスケジュールを守ることは、自分と内部監査部門事態の信用を守ることにつながります。

納期を守らない・守れない監査部門が「不備の指摘」や「改善提案」をしても、被監査部門にはどう聞こえるでしょう?仮に指摘内容が妥当であっても内容に、被監査部門は積極的な見解の受け入れや対応を行うモチベーションを損なうことでしょう。

また信頼を失った結果、自分が今後行う監査や他のメンバーが行う監査でも、受け入れに難色示されたり協力が得にくくなる場合もあります。

次の監査案件着手が遅れる

通常担当者は年間を通じて複数の監査案件を担当します。ある監査が遅延することは、当然次の監査案件に入れなくなることに繋がります。自分自身の目標達成への悪影響や会社全体でもリスクに対する監査の範囲が縮小されることになります。

また年間計画が提示されていた場合、次の監査案件の対象部門は監査の対応が想定より後になるため、予定やアサインの変更などの迷惑をかけることになります。

納期を守るためのタスク管理の基本手順

タスク管理のためには、計画段階での検討と監査実施段階での管理の2つを適切に実施する必要があります。ここでは基本的な手順とをご紹介します。

計画段階のタスク検討

  1. タスクの洗い出し
    監査計画に基づき、各ステップごと必要なメインとなるタスクを洗い出します。→後述問題①と関連
  2. キータスクの特定
    全体の納期管理上重要なタスクを特定します。→問題②と関連
  3. 所要時間の検討
    洗い出しタスクに必要な作業時間を見積もります。作業を誰かに依頼する場合は、相手側の必要対応期間を見積もります。→問題③と関連
  4. タスク配置の最適化、始期・終期設定
    タスクの順番を見直すとともに、タスクの開始・終了時期を設定します。→問題④と関連

実施段階のタスク管理

計画段階でタスクの内容と実施スケジュールが確定します。以降はこれを適切に実施するとともに必要な調整や管理をすることになります。→問題⑤と関連

  1. タスク実施
    設定した順番、開始・終了時期に合わせてタスクを実施していきます。
  2. タスク調整
    予定どおり進捗しなかったタスク、追加で必要となったタスクを設定し、開始・終了時期を調整します。必要であれば追加のリソースを確保する等工数の調整も併せて行います。
  3. タスク完了
    全てのタスクを実施・完了させます

タスク管理でよくある失敗とその対応

上で述べた基本的な手順が適切に実行されていれば、タスクが適切に処理されていくため、遅延は生じないことになります。しかし、中々そうはならないケースもあります。ここでは各段階でよくある問題点とその対応の一例をご紹介します。

計画段階での失敗

問題①必要なタスクの種類、内容の洗い出し不足

監査計画が適切、かつ具体的に作成されてないと必要なタスクの抜け・漏れが生じます。主な問題点としては必要な作業をしないこと(手戻り)、本来不要な作業をしてしまうこと(無駄・ロス)があります。

  • 監査目的・テーマの不備
    目的・テーマの理解は監査全体の基盤です。ここに問題がある場合は全工程での作業漏れや設定誤りが生じるリスクがあります。
  • 監査対象の不備
    ヒアリングや資料依頼の相手先部門の見落としが発生し、対応工数が増えることになります。
  • 監査範囲の不備
    監査対象と本来すべきプロセスを見誤り、確認漏れ等の手戻りが発生します。
  • 監査項目・要点の不備
    評価対象となるコントロールの内容・レベル感が不明確なため、確認のやり過ぎや確認漏れが生じます。または部分的な検証・重要性の低い領域への過度な確認などの問題が起きることもあります。
  • 監査手続の不備
    評価に必要な水準を超過する/下回る手続の実施により、手戻り・無駄が生じます。また必要水準を超過する場合、被監査部門に不要な負担を与えることになります。

これを防ぐには、先ず適切な監査計画を策定し「監査までのゴールとその流れ」「作業の具体的なイメージ」を持つことが重要です。

問題②キータスクの識別不足

未完了の場合、後続のタスクに影響する、いわゆるマイルストーンにあたるタスクを十分識別していないと、監査全体の遅延につながります。これは特に監査プロセスの初期において重要です。一般にキーとなるマイルストーンは下記があります。

  • キックオフミーティング
    被監査部門とのファーストコンタクトが遅れることは、基本的情報収集など以降の全工程に影響してしまいます。
  • ヒアリング日程調整
    ヒアリングは通常部門の責任者などに行うことが多く先行して日程調整をしなければ、責任者は通常多忙なので、予定を抑えることができなくなります。
  • 資料依頼
    資料の提出は被監査部門側作業ですので、監査側で協力することはできません。一定の時間は間違いなくかかるので相手の便宜を図る意味でも努めて早期に依頼する必要があります。
    特に母集団にあたるデータではさらに重要です。母集団の検証→サンプリング→サンプル依頼という工程をとるため、母集団の入手が遅いとサンプルの検証がさらに先になってしまいます

上記のとおり、被監査部門側に何らかの対応をしてもらうタスクが最優先のタスクととして処理することが重要です。依頼が遅い場合は当然相手の対応も遅くなります。

問題③タスクのボリューム又は作業の生産性の見積りミス

経験の浅いテーマを担当する場合や被監査部門をよく知らない場合、内部監査人の経験が十分でない場合等に発生します。

  • タスクのボリューム見積りの失敗
    タスク自体の量が想定より多くなるケースです。これは車の運転に例えると目的地までの距離を見誤ることに似ています。例えば監査範囲の業務をA部門だけがしている想定であったところ、実はB部門やC部門でもしていた等の場合です。
  • 作業の生産性見積りの失敗
    タスク処理に要する時間が想定より多くなるケースです。車の運転に例えると運転速度やパフォーマンスを見誤ることに似ています。(思ったよりスピードが出ない)
    タスク自体の難易度・複雑性と自分の能力を適切に分析しなければ、この失敗につながります。
    例えば、提出資料が技術的・専門的な記載が多く、内容の仮委に想定以上に時間が掛かる場合がこれに該当します。

ボリュームの見積り、生産性の見積りは同時に発生することも多いです。過去の実績や同種案件の情報を踏まえシビアな見積りが必要です。

問題④タスク処理の順番が不適切、開始・終了の期間見積りのミス

これは問題②のキータスクの識別不足や問題③のタスクボリュームの見積りミスとも密接に関連します。しかしそれだけでなく、作業の目的・意図の理解が足りない場合や使用可能な工数の検証に誤りがある場合も発生するものです。事例を提示します。

  • 効率的なタスク処理の配置ミス
    車の運転でいえばルート選択の誤りに相当します。例えば案件全体の統括者へのヒアリングを後に、個別プロセスの管理者のヒアリングを先にしてしまうと全般状況が理解できず、確認に手戻りが発生する等の場合がこれに該当します。
  • 使用可能な時間の見積りミス
    車の運転でいえば、車に乗る時間・ガソリン量の見積り不足です。自分が使える工数を正確に把握せず、割込みタスクやイベントに時間を取られて所定のタスクを実施できない場合が該当します。

洗い出しタスクは実際の業務イメージと重ねながら、最も効率的な配置にすることが重要です。また使用可能な工数の見積りは保守的に検討しておくことが実務上は大切です。

実施段階での失敗

問題⑤タスクを予定通り消化しない、できない

実施工程は予備調査・本調査・報告書作成等の計画以降のプロセス全般が該当します。計画工程が十分に適切にされていれば理論上はタスク管理の失敗は生じないはずですが、長期の案件では当人のコミットメント等によりタスクが予定どおり進捗させられないときがあります。例えば下記のような場合です。

  • マルチタスクによるスイッチングコストによるパフォーマンス低下
  • ライフイベントの重なりによる疲労
  • 生産性や完了意欲の減退

トータルでの納期を守るためのタスク管理ではメンタルマネジメントも重要です。少なくともマイルストーンとなるタスクだけは必ず期限内に順守が必要ですが、それ以外は時に優先度を下げて休養し後でリカバリーする等の措置も検討してよいと思います。

最後に

適切なタスク管理のためには何より経験がものを言う面はあります。ただ、初めて取り組む案件でも冷静に必要な作業を洗い出し、仕事のイメージを掴みながらタスクを適切な単位に分解・配置することを意識し続ければ、極めて正確な見積りをすることができるようになるはずです。

今回の記事が皆さんの業務の円滑な進行に少しでも役に立てば嬉しいです。

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投稿者プロフィール

ネット企業の監査人
ネット企業の監査人ネット系事業会社 内部監査室 室長
J-SOXバブル時に内部統制コンサルに。以来通算13年間内部監査・内部統制・リスクマネジメント・セキュリティ業務に従事しています。

自身の学びも兼ねて、縁があって内部監査を始めよう/既にしている方達に少しでも役に立つ、現場の情報をお伝えしたいと思います。

【保有資格】
・公認内部監査人(CIA)
・公認情報システム監査人(CISA)
・内部統制評価指導士(CCSA)
・公認情報セキュリティマネージャー(CISM)
・Certified Data Privacy Solutions Engineer(CDPSE)

【所属】
・日本内部監査協会会員
・ISACA東京支部会員
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