現場と対立した時-内部監査としての対処法-

はじめに

内部監査の最も基本的なスタイルは、「一定の監査基準と対象組織の現状とのGAPを識別し、GAP自体やその発生原因に対する改善を提案すること」です。

内部監査ではどうしても不備と改善をワンセットで述べる傾向があり、被監査部門にとって「不足」や「問題点」を述べられているという認識が先行してしまう場合や、その他の理由により内部監査人との対立が生じる場合があります。

内部監査が「組織に価値を付加する」ため、業務と組織の改善を実現するためには、適切に対立に対処する必要があります。

ここではそのためのヒントをいくつか提示したいと思います。

基本姿勢と対処法

感情的にならない

対立の解決の大前提・大原則は冷静であることです。

内部監査人はその社内的な立場の弱さ・監査への感覚的な反発・現場サイドの思い等により、被監査部門から相当理不尽であったり感情的な表現で批判を受けることも少なくありません。

内部監査人も人間なので、相手の言動に対して気持ちが乱されることはあるかもしれません。しかし、繰り返すようですがあくまでも冷静かつ課題解決の姿勢で臨むべきです。

自分も頭に血を上らせては討議からただの破壊的な対立、つまり「喧嘩」になってしまいます。

相手側主張の理解

対立が生じた際先ず第一に、相手が何を述べたいのか、こちらにどうして欲しいのかを把握します。

この際相手の言い分の理非等に関わらず、純粋に相手の話しとその内容を聞いて理解することが重要です。

認識・評価の差異を整理

相手側の主張を理解した際、どこが自分の主張と異なるのかを正確に理解します。

この際、事実認識に対しての差異なのか、事実関係を踏まえたうえでの評価や対応に関する意見の差異かを識別することがポイントです。

例えば内部監査部門が下記のような意見を述べたとします。

【ケース】
・A「システム開発において本番環境へのプログラムリリースに際して、コーディングやテスト結果のクロスチェック・責任者によるリリース承認が十分されていない。」
・B「そのため開発担当者が単独での検証となり、コーディングミスやテスト不足が是正されず、本番リリースされている。」
・C「Bの結果、プログラムの不具合に起因して半年間で〇件の重大なシステム障害を発生させている。」

ここで被監査部門がCについて「こんな事実はない」と述べた際、下記のような様々な考えに基づいてしている可能性があります。

・「システム障害は発生したが、プログラムの不具合によるものではない」(事実認識の差異)
・「システム障害は発生したが、〇件でなく△件である。」(事実認識の差異)
・「システムに一定の不具合があったのは事実だが、外部への影響は限定的であり『障害』というほどではない。』(評価の差異)
・「プログラムの不具合に起因して半年間で〇件のシステム障害があったが、『重大』ではない。』(評価の差異)

このように、相手側が事実の誤りとしている場合でも、実態としては評価に関する事項(言葉の解釈含む)であることも多く注意が必要です。

事実関係の確認

事実関係の認識に差異がある場合は、先ず事実関係を確定させましょう。

曖昧な言葉使わず5W1Hが明確になるような質問を行い、相互に事実関係の認識合わせを行うことが望ましいです。そのうえで内部監査の主張に誤りや不適切な点があれば、率直に認めて修正しましょう。

相手側の誤りである場合は、確認が出来たことを成果として議論を次に進めましょう。間違っても尊大な態度を示すべきではありません。相手を不要に傷つけ今後の議論の生産性を損ないます。

討議の場の中で確認することが難しい場合は、後日に改め、他の争点を整理するなどしましょう。

「評価」の意見交換

事実関係の整理ができた場合は、評価に関する差異について意見交換をすることになります。

事実関係は比較的相互の認識差異を埋めやすいですが、それに対する評価は観点や立場・価値観や専門性が違えば異なって当然のこともあり議論が必要です。

一般に内部監査部門と被監査部門の間では、リスクの評価、不備の問題度合いに関する認識が異なる傾向があります。

例えば「ケース」では、内部監査としては本番環境への変更管理という重要統制において有効な牽制が確認できず、かつ実際に障害が発生しているので指摘をしているわけですが、現場部門からすると担当エンジニアのスキルや重要なものはレビューする等の活動によって実態としてリスクは抑えていると考えるかもしれません。

こうした際は、顕在化したリスク(事故・障害)の発生件数・度合い、社内の他部門との比較、社外の同種部門との比較、公的なガイドラインやフレームワークとのGAP分析等、相互が理解し合える客観的な指標を基にリスクや問題の程度、改善の必要性について意見交換しましょう。どこかで接点が見えるはずです。

仲裁・調停

あまりに相互の評価に関する見解の差異が大きい場合は、当事者だけでなく、第三者として知見のある人材の意見を聞く又は仲介してもらうことも有効です。

内部監査人は本来独立・客観的な立場から意見を述べる存在ですが、討議においては「当事者」であり、こうした社内の知見・意見を取り入れることも有用です。

※実務的には、現場部門とのハレーションを起こしそうな指摘や提案をする際は、予めこうした第三者の見解を確認するなどして「外堀り」を埋めてから、相手との討議に臨むことが有効です。

受容検討

議論の結果どうしても平行線となる場合は、相手側の主張を受容できるか検討しましょう。

そもそもあまり重要な問題でなければ討議を重ねる必要もないのですが、全体的に見た際他により重要な論点があり早期の改善が求められるような場合は、相手側の主張受け入れも検討の必要があるでしょう。

ただしこれは安易に行うべきでないのは、もちろんです。

最終手段:両論併記

これまで手を尽くしても残念ながら、相互の主張の隔たりが大きく物別れになった場合は、内部監査報告書上に双方の主張と合意に至らなかった理由を記載し経営者に提出して判断を仰ぐしかありません。

しかしこれは本当に最後の手段です。ここまでいくと現場と円滑にコミュニケーションを取れなかったという事実から、ある意味内部監査の「負け」となるでしょう。

筆者は少なくとも100回以上内部監査の実施・報告をしていますが、両論併記した報告書を記載したのは過去に1回しかありません。通常は講評会の一つ前の現場部門との事実関係や改善方向性の確認会(仮講評会)で、認識合わせができます。

最後に

日本の事業会社での内部監査部門において、最も重要なスキルは専門的な知識や技能、論理的思考力、ライティング等ではなくコミュニケーション能力であると思います。

残念ながら監査結果の討議の際などは内部監査部門の立場の弱さもあり、現場でかなり無体な言葉を浴びせられることもあります。怒りの感情を覚えることは正常ですが、感情的になることは課題を解決することと何ら関連性はありません。

どれほど悔しくても感情的にならず冷静に議論すること、それが内部監査のプロフェッショナルに求められるものだと思います。

【参考】その他内部監査の諸課題、現場のリアルな悩みやその対処についてまとめた記事があります。良ければ合わせてお読みください。

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投稿者プロフィール

ネット企業の監査人
ネット企業の監査人ネット系事業会社 内部監査室 室長
J-SOXバブル時に内部統制コンサルに。以来通算13年間内部監査・内部統制・リスクマネジメント・セキュリティ業務に従事しています。

自身の学びも兼ねて、縁があって内部監査を始めよう/既にしている方達に少しでも役に立つ、現場の情報をお伝えしたいと思います。

【保有資格】
・公認内部監査人(CIA)
・公認情報システム監査人(CISA)
・内部統制評価指導士(CCSA)
・公認情報セキュリティマネージャー(CISM)
・Certified Data Privacy Solutions Engineer(CDPSE)

【所属】
・日本内部監査協会会員
・ISACA東京支部会員
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