内部監査部門の「困った」責任者たち

はじめに

内部監査は独立性の観点から社長直下の部門として設置されることが多く、また部門内はあまり階層がなく、部門長以下は全員メンバーなどの構成も少なくありません。

他部門と監査以外の接点が乏しいこともあり、内部監査部門が「ムラ社会化」するケースも見られます。

こうした狭い環境の中で部門長、つまり内部監査室長は人事上の評価権と業務の決裁権を一元的に持ち、メンバーに対して強い影響力を持ちます。

優れた人格と経験を持つ方もいますが、そうでないケースもあります。ここでは筆者が見聞きした内部監査のパフォーマンスを下げる責任者の事例を紹介します。

「困った」責任者たち

細かすぎる』内部監査室長

【発言例】
「監査実施通知でさ、『監査を実施致します」になっているけど、相手は〇〇さんだからもう少し丁寧に『監査をさせて頂きます』の方がいいと思うんだよ。』

「ああっ!そっちは上座だから!被監査部門の責任者に座ってもらおうよ。』(社内会議室で)

「ここの括弧が半角と全角が混ざっていて、ここは『サーバー』と『サーバ』が統一できていなくて・・・』

内部監査では書式や表記、文章の階層構造等のドキュメンテーションには厳格な人が少なくありません。また被監査部門への適切なマナーについても配慮の強い方もいます。

これらはある程度は必要であるものの、あまりに些末な点に過度に拘りすぎることは生産的とはいえません。

メンバーは細かな点に注意が取られ、重要な検証や論点整理に集中ができなくなります。

形式や体裁も疎かにしてはいけませんが、部門長としては内部監査の本義である「組織に価値を付加する」という視点が必要です。

細かな指摘ばかりでなく、本質的な課題や重要な論点について適切な指導ができる存在であってほしいです。

正論を言いすぎる』内部監査室長

【発言例】
「母集団の網羅性について、具体的に検証したの?、例外がないことは何で確認したの?あと客観的にわかる記載になっていないよ。」

「『リリース承認を適切に実施していた』と記載しているけど、何を以て適切といえるの?」

「~『は』実施できていた、という表現からすると、実施できていない別の何かがあったということ?」

「発見事項に対する改善提案の具体性が乏しいうえに、費用対効果の観点から妥当かが、この記載からは分からないよ!」

監査法人やコンサルティングファーム出身で専門性が高く、業務経験・知識ともに豊富な内部監査室長は、とても頼もしい存在です。

しかしその高い論理性・語彙力・文章力・専門性が一般事業会社での内部監査部門では、却ってメンバーの生産性を損なってしまう場合があります。

事業会社の内部監査室では、メンバーは通常の人事異動でのローテーションで配属されることも多く、監査特有の表現や考え方に精通しているわけではありません。

会計監査・監査役監査・内部監査の三様監査の中で、内部監査はあくまでも任意監査です。会社業務の改善に貢献する、という視点から適切な水準でのレビューがされればよく、当人以外誰も気にしない箇所には時間を掛けるのは適切とはいえません。

勿論基本的には正しい判断や監査としてのあるべき姿や論旨の追及はすべきですが、段階があります。

改善提案の合理性や発見事項の表面的事象だけでなく、本質的な原因まで是正できるか等、根源的な箇所には多いに検討することが必要ですが、優先順位とメンバーの力量を踏まえたフィードバックが必要でしょう。

無気力すぎる』内部監査室長

【発言例】
「これはキミを信頼して任せるよ。」

「講評会はできれば、キミの方でやってもらいたいんだけどいいかな。」


「じゃあ、こっちでもいいよ」(年間監査計画の監査テーマの検討時に)

「もうこれくらいやればいいんじゃない?多分結果は変わらないでしょ。」

内部監査の部門長自身がローテーションなど希望しない形で配属されたり、又は何かの理由で著しくモチベーションを落としていた結果、無気力となっているときがあります。

考え方によってはメンバーは自分の提案を通しやすいなどのメリットもありますが、内部監査は個人より組織としてのチームプレーが要求されるもの。また監査での検証や確認を「どこまでやるか」は常に悩ましく、難しい判断が必要になります。

こうした際に、無気力な責任者が上にいることは、真面目なスタッフにとっては大変辛いことです。

真摯に検討したものでも、いい加減なやっつけ仕事でも評価が変わらないなら、高いモチベーションを維持することはできるでしょうか?監査が形骸化する一因となることは間違いないでしょう。

『忖度しすぎる』内部監査室長

【発言例】
「これ、〇〇の問題がある、と書いているけど、部門の人たちも一生懸命やっているから、気を悪くさせてしまうよ。」

「部門の人から見たらこれは問題じゃないと思うかもしれないから、もっと話し合おう。」


「絶対にこれ指摘しないといけないかな?本当の本当に問題なら言わないといけないけど。」

内部監査部門は独立性と客観性を持つとはいえ、常識的な観点で、現場部門へのマナーは大切です。

また針小棒大な指摘や単に形式的な書面の有無だけでなく、業務運用面での実際のリスク低減状況等、対象部門の活動を総合的に検証し相手の話しに耳を傾けることは必要です。

しかし、そうした次元でなく部門の責任者や担当に過度に委縮して問題をテーブルから下してしまったり、ハレーションを避けるあまり表現を不適切に薄めるのは本末転倒でしょう。これでは「内部忖度室」になってしまいます。

監査で見つけた問題について報告すること自体を忌避される、という意味では、最も困る責任者といえるでしょう。

最後に

安易に人にレッテルを張るべきでないのはもちろんですが、「内部監査」の仕事を長期に渡り適切にマネージすることは中々難しく、上で述べた責任者のパターンに陥るケースは珍しくありません。

会社全体の観点からあるべき姿とのGAPを適切に識別し、必要な改善を事実に基づき提案する、という点に誇りを持ちたいものです。

【参考】その他内部監査の諸課題、現場のリアルな悩みやその対処についてまとめた記事があります。良ければ合わせてお読みください。

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投稿者プロフィール

ネット企業の監査人
ネット企業の監査人ネット系事業会社 内部監査室 室長
J-SOXバブル時に内部統制コンサルに。以来通算13年間内部監査・内部統制・リスクマネジメント・セキュリティ業務に従事しています。

自身の学びも兼ねて、縁があって内部監査を始めよう/既にしている方達に少しでも役に立つ、現場の情報をお伝えしたいと思います。

【保有資格】
・公認内部監査人(CIA)
・公認情報システム監査人(CISA)
・内部統制評価指導士(CCSA)
・公認情報セキュリティマネージャー(CISM)
・Certified Data Privacy Solutions Engineer(CDPSE)

【所属】
・日本内部監査協会会員
・ISACA東京支部会員

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