不幸な転職をしないために-内部監査人の企業研究-

はじめに

総務省統計局の労働力調査(2020年4月28日発表)によれば、2019年度では仕事を辞めて求職をした人は107万人となっています。このうち、37万人が非自発的な離職(定年・雇用契約満了/会社都合)、69万人が自己都合による自発的な離職とされています。

出典:「労働力調査(基本集計)2019年度(令和元年度)平均 結果の概要」(総務省労働統計局)
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nendo/pdf/gaiyou.pdf
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・仕事をやめたため求職 ・・・・・・・・・・・・ 107万人と, 5万人の減少
 ・非自発的な離職 ・・・・・・・・・・・・ 37万人と, 3万人の減少
  ・定年又は雇用契約の満了による離職 ・・ 16万人と, 2万人の減少
  ・勤め先や事業の都合による離職 ・・・・ 21万人と, 1万人の減少
・自発的な離職(自己都合) ・・・・・・・・・ 69万人と, 3万人の減少
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その他参考:「労働力調査(基本集計) 2019年(令和元年)平均結果」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/index.html

年間100万人以上もの人が好むと好まざるとに関わらず離職しています。また2020年5月現在は新型コロナ影響に伴う深刻な経済ダメージが懸念されており、残念ながら本年度は非自発的又はそれに準じた離職をせざるを得ない人も増えるのではないでしょうか。

すぐに解雇ということでなくともバックオフィス業務は不況下においてダウサイジングされる場合があり、仕事内容や給与等の条件が悪化する可能性があります。

転職するのも、自社に留まるのもそれぞれリスクがありますが、せめて後悔はしたくないもの。それには仕事内容は勿論企業の選び方も大切です。特に内部監査・内部統制の分野で複数回転職をしてきた筆者が、失敗体験も含めて企業選定の際重要と考えるポイントをお伝え致します。

企業選びの重要ポイント5点

ポイント①:何のために内部監査人を探しているか

内部監査の担当者を探す企業にはいくつかのパターンがあります。下記は筆者が見てきた範囲の事例をほぼ網羅してみました。

■上場企業の場合
・内部監査体制の立て直し又は退任による交代(部門長クラス)
・欠員補充又は会社規模拡大による追加リソースの調達(シニアスタッフクラス)
・システム監査・セキュリティ監査等の特定テーマが可能な監査リソースの調達(シニアスタッフクラス)

■非上場企業の場合
・内部監査体制、特にJ-SOX対応の確立(部門長クラス)
・欠員補充(シニアスタッフクラス)
・規制ビジネス対応の一環として内部監査が必要(部門長~シニアスタッフクラス)
 -例:仮想通貨交換事業者、資金移動業者、前払式支払手段発行者等
・IPOを見越しての内部監査体制の構築(部門長~シニアスタッフクラス)
・セキュリティ管理・コンプライアンスを含めたリスク管理体制及び内部監査体制の構築(部門長クラス)
・その他
 -例①:自社は上場してないが親会社が上場。J-SOXの評価範囲に入っているため内部監査担当が必要
 -例②:特定の役員が内部監査の必要性を述べたため

自分のキャリアプランや職務経験を踏まえ企業側が求める要件やポジションがそれに叶うものであるか、双方のために慎重に検討してみましょう。

特に内部監査への具体的な期待や役割が述べられるかは重要なポイントです。

内部統制の意識があまり十分でなくこの方面の知識が少ない会社ほど、曖昧な理由や要件で人探しをしているケースが見られます。入社後すぐに困らないように、解決したい課題が何かやそれに必要な体制や権限が付与されるのかはよく検討しましょう。

ポイント②:財務体質は健全か

内部監査に限りませんが、対象企業が安定的な売上・利益を出しているかは転職先検討の上では極めて重要です。

これは自分の将来的な所得や雇用が維持されるか、昇給・昇格の期待が持てるかという意味も勿論ありますが、内部監査としての、仕事のやりやすさや働き甲斐とも密接に関係します。

経験者は分かると思いますが、会社が傾いているときの内部監査は「不要・不急なもの」としてその必要性が理解されにくく、また現実的に被監査部門に多様な配慮が必要となり難しいコミュニケーションとならざるを得ません。

特に投資フェーズであまり売上・収益ともに芳しくない状態で、上場目的の体制整備として内部監査担当を探している会社は特に注意が必要です。一歩間違えると仕事と会社が両方一度に無くなるリスクもあります。

上場企業であれば通常自社のWebサイトにはIR情報として損益計算書や貸借対照表を開示しているはずです。非上場の場合も、会社法上は官報や新聞やWeb掲載で「決算公告」をする必要があるので、何らかの形で開示情報を確認できるはずです。もし該当する情報が確認できなければ担当する転職エージェントに尋ねるなどの方法もあります。

いずれにしても、その会社の財務状況をよく確認することは不幸な転職を産まない必須要素の一つといえるでしょう。

ポイント③:どういう業界か

同じ「東証一部上場企業」であっても、厳格な統制が求められてきた金融系・医療系事業会社と、ゲームやエンターテイメント等を行う事業会社では業界の構造や「文化」が全く違います。

内部監査の最も基本的な業務の一つは、会社規定に対する事業活動の準拠性・有効性を検証することです。しかし、そもそも「ルール」や「コントロール」よりもビジネスとしてのスピードやセンスで成長してきた業界や会社は、こうした必要性や理解が前提としてないこともあります。

上記の業界にある事業会社では、内部監査としては、固有リスクを踏まえて許容可能なリスク水準とそれに必要なコントロール設計から検討する必要があるなど、一定の「苦労」は覚悟する必要があります。逆に自身に類似する経験を持つ人材は少ないはずなので、「オンリーワン」として活躍する機会もありそうです。

これ対して、金融事業会社は伝統的に統制や監査の習慣があり内部監査への理解はありそうです。しかし監査のスキームや手順が明確化されるあまり、自身の創意や工夫を入れる余地が少なかったり、ドキュメントの厳格な作成を求められることもあるかもしれません。

どのような業界にしても、自分の経験してきた業界との親和性を軸に適性を検討する必要があるでしょう。それでなければ「これは内部監査ではない」とか「ここまでやらなくても」とか、ギャップが生まれてしまう可能性があります。

ポイント④:不祥事や不正を起こしていないか

社会的に問題視されるような重大な事故や障害、不祥事を起こす企業があります。これは必ずしも規模の小さい企業だけでなく、誰もが知る有名上場企業で起きるケースもあります。どちらかというと後者のほうが記憶に残るかもしれません。

広報・メディア対応の専門誌「広報会議」が行った2019 年において企業不祥事で「最もイメージダウンした出来事」についてアンケート調査がされています。その結果を以下に抜粋します。

【2019 年 イメージダウンした不祥事ランキング】(括弧内は回答者 1000 人中の選択者数の割合)
1 位:かんぽ生命・ゆうちょ銀行で不適切販売が発覚(48.7%)
2 位:レオパレス21の建築基準法違反(38.5%)
3 位:吉本興業で相次ぐタレントの不祥事と事務所の対応(37.3%)
4 位:関西電力の幹部らが高浜町の元助役から金品受領(29.7%)
5 位:セブン・ペイがセキュリティ問題で撤退発表(21.3%)
6 位:日産・ゴーン逮捕と西川廣人CEO解任(19.9%)
7 位:食べログなどの口コミ評価問題、公取委が実態調査(6.2%)
8 位:リクナビが「内定辞退予測」企業に販売(4.4%)
9 位:「宅ふぁいる便」大規模な個人情報漏えいでサービス停止(3.8%)
10 位:カネカ、元従業員妻がTwitterでパタハラ告発(2.1%)

『全国の男女 1000 人が選ぶ、2019 年の「ワースト不祥事」』(2019 年 12 月 2 日)より
https://www.sendenkaigi.com/news/files/release20191202a.pdf

かんぽ生命・ゆうちょ銀行、日産、リクルートキャリア(リクナビ運営会社)、関西電力など錚々たる企業が並んでいます。大手の企業であれば一定以上の内部管理体制を構築しているはずですが、それでも影響の大きい不祥事が起きています。

こうした企業が、事件後に「内部監査体制の刷新」等の名目で内部監査やリスク管理の強化のため、担当者を探すことがあります。内部監査の転職検討者としては、「大きな不祥事を起こした後だから改革の気運が高まっている」ため、内部監査の仕事が弾みがつくという考えもあるでしょう。果たしてそうでしょうか?

これは社長以下主要な経営幹部が殆ど交代する等大規模な改革が可能な陣容になっているなら、あり得るかもしれません。しかし、事実上ごく一部の役員しか変わらないとか、不祥事の当事者が社内での枢要なポジションを占めている場合は、形式的な対応に終わる可能性が十二分にあります。

ポイント⑤でも触れますが、組織風土や規範意識はそう簡単には変わりません。まして権力者が変わらなければ猶更至難です。内部監査はこうした「政治事情」に振り回されないよう、冷静に対象企業の状況を見るべきでしょう。

ポイント⑤:統制環境は大丈夫か

ポイント④と深く関わりますが、内部統制として最も重要な統制環境が不十分な企業は可能な限り避けた方がよいと個人的には強く思います。

内部監査人にとって仕事のやりやすさ・遣り甲斐・将来的なキャリアダメージリスク(不祥事企業の監査人という評価)の観点から非常に重要な考慮要素だからです。

ここで改めて「統制環境」の定義を振り返りましょう。太字・赤字は筆者によるものです。

統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応に影響を及ぼす基盤をいう。
統制環境としては、例えば、次の事項が挙げられる。
① 誠実性及び倫理観
② 経営者の意向及び姿勢
③ 経営方針及び経営戦略
④ 取締役会及び監査役又は監査委員会の有する機能
⑤ 組織構造及び慣行
⑥ 権限及び職責
⑦ 人的資源に対する方針と管理

出典:「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(平成23年3月30日 企業会計審議会)
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/tosin/20110330/01.pdf

企業の統制環境について外から知ることは難しい面もありますが、対象企業のWeb検索でのニュース確認や、最近は企業情報の口コミサイトもあるので「社員の生の声」から自分なりの分析や検討をしてはどうでしょうか。

社長直下に置かれることの多い内部監査部門にとって、当該社長やその信任を受ける経営幹部のガバナンスやコンプライアンスに対する姿勢は業務全体に影響するものと考えて、先ず間違いありません。

最後に

新型コロナ影響による経済への傷跡は大きく、やむを得ず転職を検討する方もおられると思います。

内部監査・内部統制の案件に応募する際は、自分のキャリアプランや経歴とのマッチングも重要ですが、その企業自体についても深く研究することが大切ではないでしょうか。

特に統制環境が十分でない企業に転職することは他条件が良くても、内部監査人にとっては大きなリスクであると筆者は強く考えています。

転職を検討する方にとって、今回の記事が少しでも参考になれば何よりです。

[参考記事]
本記事を含む内部監査へのキャリア事情や働きやすさ、転職や面接についての纏め記事です。関連する記事がマッピングされているので良ければお読みください。

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投稿者プロフィール

ネット企業の監査人
ネット企業の監査人ネット系事業会社 内部監査室 室長
J-SOXバブル時に内部統制コンサルに。以来通算13年間内部監査・内部統制・リスクマネジメント・セキュリティ業務に従事しています。

自身の学びも兼ねて、縁があって内部監査を始めよう/既にしている方達に少しでも役に立つ、現場の情報をお伝えしたいと思います。

【保有資格】
・公認内部監査人(CIA)
・公認情報システム監査人(CISA)
・内部統制評価指導士(CCSA)
・公認情報セキュリティマネージャー(CISM)
・Certified Data Privacy Solutions Engineer(CDPSE)

【所属】
・日本内部監査協会会員
・ISACA東京支部会員
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