内部監査が形骸化する本当の理由

形骸化著しい日本の内部監査

J-SOX制度施行以降、ガバナンスの一翼を担う内部監査の重要性について述べる識者は増えてきました。

また海外では内部監査の専門性が高く評価されたり、経営課題を解決するある種のコンサルテーション組織として経営幹部の登竜門的な位置づけとなる企業もあるとされます。

しかし、日本の内部監査はこうした「理想的な姿」からは程遠いのが現状です。しかも容易に解決されそうにありません。

コンサルタントとして、または事業会社の内部監査員として見てきた限り、内部監査が実効的に機能するケースは極めて稀と考えます。

また一時的には活躍しているように見えても長くは続かない傾向があるのではないでしょうか。今回は内部監査側の問題点を中心にその理由を考えて見ました。

内部監査人が問題指摘をするインセンティブが薄い

内部監査としては「組織体に価値を付加」する、つまり組織や業務の問題を見つけて、この改善に貢献が期待されています。しかし、意識の高い厳格な部門長がいるなど特殊な場合を除き問題指摘にはデメリットが多いのです。

  • 問題を指摘する以上原因の分析や改善を検討して提案しなければならず、時間を要する。
  • 問題指摘に対して、被監査部門は多かれ少なかれ反発・抵抗・弁明をするため、合意形成には労力や精神的な負担を要する。
  • 問題の性質がテクニカルな場合、指摘の価値が内部監査部門長や上位の役職者に理解されず、内部監査人の評価につながらない。
  • 上記の裏返しとして目標管理上「第二四半期までに、3件のテーマ監査を完了させる」などという目標設定をすることが多く、品質よりも納期目標の方が評価されやすい。

本質的で有効な指摘と改善をしようとした際のハレーションやコンフリクト、それらを纏めるためのコミュニケーションコストや監査手続き等に比して、軽微な問題に留めて早期に監査を完了させるほうが相対的には「費用対効果」がよいことになってしまいます。

内部監査人のモチベーションが続かない

内部監査の「部門」上の特性と「業務」上の性質から、監査業務に高い意欲を持ち続けることが困難な面があります。

  • 日本の事業会社においては一部の例外を除いて、内部監査は人事異動の一環として配置されることが多くあり、内部監査に高いモチベーションを持つ人材が配置されない場合がある。
  • 内部監査部門は少人数で運営されることが多く、役職が限られる。このため意欲的に成果を出しても新たなポストにつくことができない。
  • 内部監査業務では、事業や環境に大きな変化がない場合、前年度と同じテーマの監査をしたり、テーマが違っても監査手続を一部改変して行う形となる等、前例踏襲が多く次第に飽きてくる。特にJ-SOXのウォークスルーや運用テストではこれが顕著である。
  • 内部監査業務の品質評価プラグラムが確立していない場合、またはリスクにつながる問題指摘を高く評価する姿勢を見せない場合、敢えて苦労して問題を見つけようと内部監査人はしなくなる。決められた手続きを正確に実施したかに関心が向きがちになる。

もちろん個人の資質として職業意識から来るプロフェッショナリズムを持ち、自学研鑽を怠らないような内部監査人もおられます。しかしそれは例外で、高い意欲と学習姿勢を保持し続けるケースは残念ながら少ないのが実態ではないでしょうか。

経営者・現場等からのプレッシャーや圧力がある

内部監査への期待や明確な役割が付与されず、制度対応や一般的な説明責任として内部監査部門があるという「外観」のみが必要とされるような悲しい現実もあります。

こうした企業においては、経営者からも余計なことはしてくれるなとばかりに消極的な監査対応の方針が打診されたり、現場部門の責任者から内部監査に強い反発や有形無形の圧力が加えられることもあります。内部監査が骨抜きになる最大の要因といってもよいでしょう。

本来内部監査の立場上は改善提案を述べる必要があっても積極的にそれを述べられる体制が整っていなければ、声を上げることは事実上至難の業です。時には内部監査の責任者自体がこうした圧力に適切に対処できず、現場認識を追認するだけの存在となってしまうこともあります。

内部監査人自身の職業的な倫理観に依拠して監査の役割を全うすることは、属人的に可能な場合もありますが、継続的・反復的なプロセスとはいえません。

圧力のケースと具体的な内容については下記の記事も参照ください。

成功のカギは「社長」と「内部監査部門長」

いかがでしょうか。内部監査の指摘を形骸化させる要素があまりに多いことがわかるかと思います。

一言でいうと「問題指摘をすると手間であるのに、別に評価が上がるわけではない。遅延して評価が下がることもある。」ことに集約されると思います。そしてこの状態が続くと「どんどんやる気が下がり、仕事の品質も下がる。しかし評価は特に下がらない」ため強くこの姿勢が強化されてしまいます。

内部監査の指摘の価値やそこに至る監査人の努力に社長や内部監査部門長がしっかりと目を向け続けることが、監査を形骸化させない唯一の方法かもしれません。

【参考】その他内部監査の諸課題、現場のリアルな悩みやその対処についてまとめた記事があります。良ければ合わせてお読みください。

Follow me!

投稿者プロフィール

ネット企業の監査人
ネット企業の監査人ネット系事業会社 内部監査室 室長
J-SOXバブル時に内部統制コンサルに。以来通算13年間内部監査・内部統制・リスクマネジメント・セキュリティ業務に従事しています。

自身の学びも兼ねて、縁があって内部監査を始めよう/既にしている方達に少しでも役に立つ、現場の情報をお伝えしたいと思います。

【保有資格】
・公認内部監査人(CIA)
・公認情報システム監査人(CISA)
・内部統制評価指導士(CCSA)
・公認情報セキュリティマネージャー(CISM)
・Certified Data Privacy Solutions Engineer(CDPSE)

【所属】
・日本内部監査協会会員
・ISACA東京支部会員
+2

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です