内部監査の仕事がつらいとき

はじめに

「仕事を辞めたい!」と思う日は誰にでもあります。それは内部監査の業務も同じです。

内部監査はその独特の組織体制や業務特性から、主に精神的な辛さがあるケースが多いです。ここでは筆者個人の経験や考えに基づく「内部監査の仕事が辛い」シーンをベストテン形式でご紹介します。

内部監査の仕事が辛いと感じるシーン10選

第10位:ミーティングをドタキャンされるとき

内部監査においてヒアリングが最もよく用いられる監査技法であり、当然被監査部門とのミーティング機会は多いです。

しかし、内部監査部門とのミーティングは多忙な現場部門にとっては、どうしても優先度が低くなりがちなもの。健康診断のリスケに似ているかもしれません。

前日はおろか当日の直前に「都合が悪くなって。。」ということは、日常茶飯事です。筆者は1回の打ち合わせで最高4回リスケしたことがあります。

もちろん誰しも事情はあるのでやむを得ない面もあります。至急な案件や家族・体調等対応できないことがあるのは当然致し方ありません。

とはいえ、そこまで緊急性がないケースでも相手からリスケを申し出られれば断ることは難しいです。事前に確認事項を一覧化し当日の進め方も慎重に検討していた内部監査人にとっては、唐突なリスケは心情的にも仕事の面でもつらいことになります。

第9位:必要な資料や回答を中々もらえないとき

内部監査では回答の裏付けとしての資料検証や追加確認の質問が必ず発生します。

対応の内容や期限に合意して依頼することが基本ですが、人によっては、何日もメールに回答しなかったり、回答しても適当な内容であり再度確認が必要なケースもあります。

前述のとおり現業を抱える現場部門の事情を考えると、あまり強くはいえないところです。また急に差し込みの仕事が入り対応できないときもあるでしょう。

それでも予め約束したことを説明もないまま、簡単に反故にされるのは中々切ないものです。

こうならないように分かりやすい資料一覧を作成したり、内容説明を丁寧にするなどの細かな手間が大切です。

第8位:仕事の内容が適切に評価されないとき

内部監査の業務は納期を順守したかは一目瞭然ですが、業務の品質については客観的な評価が難しい面があります。

内部監査部門長のスキルや性格によっては、高度な分析により事前にリスクを把握して適切に課題化して具体的な改善提案をするような品質の高い監査も、チェックリストベースに簡単な確認をしただけの監査も大して差がない評価となるケースもないわけではありません。

評価はあまり気にせず自分のプライドと将来のため、会社のあるべき姿のために業務品質は適切に確保すべきですし、それが認められるように成果を可視化するなどの工夫が必要でしょう。

ただしこうした措置をしても適切な評価が受けられるとは限りません。労力と成果に見合う評価を受けたいのも人情です。

第7位:上司の思い付きで計画が変更されるとき

経験のある監査スタッフは年間監査計画で示された期限と主なテーマから、合理的な監査範囲・監査項目・手続を纏めて、個別監査計画を策定します。

丹念に精査した計画に基づき上司の承認のうえで業務を進めていたときに、突然当の上司から「やはりここも見てほしい」「〇〇さんと話したらあそこが気になるようだ」などとして計画の内容変更を相談されるときがあります。

勿論当初の計画に関わらず、重要なリスクを後発的に認識したりその他の理由で計画を変更する場合はあります。

しかし明らかに十分な検討なく、どうみても「思い付き」としか言いようの無い変更を依頼されることも、またあるのです。往々にして監査の業務及び必要な工数をあまり理解していない上長がこうした指示をすることが多く、理屈を伝えても噛み合わない内容になることもしばしばです。

内部監査の計画はリスクアプローチにより作成されることが望ましいですが、「リスク」の捉え方や評価は完全には定量化できず、個人の主観が入る面否めません。自分が間違っていることも当然ある。そう言い聞かせてよく相手と話し合うしかありません。

第6位:被監査部門がひたすら攻撃的なとき

内部監査は業務の性質上課題の指摘という要素がどうしても含まれ得るうえ、被監査部門の担当自体にとっては、ブラスの面が見えにくいため人によっては過度に防衛的・攻撃的な言動を示す方もいます。

「何故この時期に監査をやるのですか?」
「監査の目的は何ですか?」
「今の質問は意味があるのですか?」
「資料の依頼意図をもう一度説明してください!」
「我々の業務は十分適切に実施されており、指摘はあたらない!」

内部監査としては、多忙な現場部門が時間を割いてもらっていることに感謝の念を持つとともにに、透明性の高い監査計画や手続きの説明をすべきです。また現業を良く知る相手「犯人探し」ではなく「原因探し」をしているとか、批判でなくより良いプロセスへの改善が目的と正しく伝えて協力や理解を促すべきでしょう。

勿論相手の意見が妥当であれば積極的に取り入れましょう。

しかし、そうした手順を踏んでも協力が得られないときもあります。あまりに相手の言動が適切さを欠いている場合は周囲の人間に相談することも必要ですが、内部監査の立場の弱さを思い知ることになるかもしれません。

第5位:明らかに不要な検証を強いられるとき

内部監査という業務の品質をどこまで担保するかは、長く業務に関わっていた人間でも常に悩ましい問題です。スタッフは納期と品質のせめぎ合いの中で監査手続を検討してまいす。

こうした中で、明らかに費用対効果に合わないと見られるような複雑な監査手続を上司から追加で指示されるときがあります。特に運用状況の検証や、整備不備の状態での実証性検証などのサンプル取得や必要な監査証憑を多い工数を要する手続きの場合は、とてもつらいことになります。

これは監査報告の承認に不安を感じたり、或いは独自の考え方に基づきなされます。もちろん指示が適切な場合もあるでしょう。しかし、立証できることはごく僅かであったり結論に影響を与えない内容である場合は、それらを踏まえて実施すべきかよく話し合わなければいけません。

自分の負担も勿論ですが、協力してもらう被監査部門の方達への説明に辛さを感じるでしょう。自分がその検証の必要性に納得できていなければ猶更です。

第4位:被監査部門の改善が進まないことで批判されるとき

通常監査報告書の内容について被監査部門に合意を得たら、続いて指摘事項に対する改善計画の策定を依頼します。内部監査は報告をして終わりではありません。計画に基づき改善までフォローアップをする必要があります。

しかし様々な理由から被監査部門での改善が円滑に進捗しないことがあります。環境の変化・役職者の交代・業務上の優先順位等の理由からです。こうしたなかで、改善の遅延を監査担当者の責任とされるのは、つらいものがあります。

働きかけや相談に乗ることはできても改善そのものを推進することは内部監査人にはできません。

事情が分かっている人はまずしないことですが、あまりこうした背景を理解していない上席者から、叱責を受けることはあります。丁寧に説明して理解を求めるしかありません。

第3位:監査報告書の不適切な修正を指示されるとき

部門への配慮や畏怖の念が強すぎる内部監査の部門長は、報告書の指摘事項や表現、改善提案の内容をなるべく当たり障りのないものに薄める行動にでることがあります。

指摘と改善のバランスや適切な問題表現が必要なことは言うまでもないですし、妥当な指摘なら当然修正しなければなりません。

しかしそうした経緯でなく恣意的な感情から修正を指示するケースもあります。内部監査の本義からするとあってはならないことですが、日本の事業会社の会社員としてなら理解できる振る舞いではあります。

内部監査を真面目に行う人間ほど、こうした振る舞いを目の当たりにするのはつらいことです。予断を持たず話し合い相互に落としどころを探りましょう。

第2位:被監査部門の「偉い人」に理不尽な叱責をされるとき

内部監査の報告案は、通常監査結果の意見交換会いわゆる「監査講評会」で担当役員に説明と事実確認、改善方向性の合意をとります。

こうした際、社内に影響力の強い役員は内部監査などは歯牙にもかけない言動をするケースもそれほど珍しくありません。具体的にはこちらの説明や問いかけに一言も反応しなかったり、内容が無意味と決めつけるような振る舞いです。

百戦錬磨で修羅場をくぐってきた方からすると、内部監査は取るに足らないと感じたり、監査自体の問題点や限界を的確に見抜いてしまうこともあります。態度はともかく指摘は一定正しいケースあります。

しかし少しでも改善に貢献したい気持ちで監査業務に取り組んできた者にとって、こうした態度は、とてもつらいのはいうまでもありません。最後まで踏ん張るしかないでしょう。

第1位:上司に手のひら返しをされるとき

上記の役員の反応を目の当たりにした上長が途端にそれに迎合しだす。どころか「もっと検証が必要でした。」などと間接的に担当者の批判を始める・・・この局面は最高につらい瞬間です。

監査講評会に出す報告書を上長に確認せすに出す内部監査人は存在しません。もちろん報告書の内容は上長に承認を受けているのです。

相手の指摘が妥当ならばそれを受容するのは必要ですし、的確な理解のうえ認めるべきは認め、正すべきは正さなくてはならないでしょう。

そうではなく畏怖の念が先立ち相手の顔色で態度を変える人が内部監査の責任者であるならば、その下で有効な活動を監査として行うのは至難でしょう。様々な意味でやり切れなくなる瞬間です。

こうした際は冷静になり、最低限の落としどころに着地できるように粛々と対話しましょう。

最後に

纏めてみると被監査部門や直属の上長との関係が、仕事の辛さと直接的に関係してしまうようです。

コミュニケーションの大切さや感情的にならないことの必要性を内部監査の仕事に関わる者は、よく理解しなくてはなりません。

こうした感情面も含め為すべきことを為すのが、内部監査のプロフェッショナルなのでしょう。

【参考】その他内部監査の諸課題、現場のリアルな悩みやその対処についてまとめた記事があります。良ければ合わせてお読みください。

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投稿者プロフィール

ネット企業の監査人
ネット企業の監査人ネット系事業会社 内部監査室 室長
J-SOXバブル時に内部統制コンサルに。以来通算13年間内部監査・内部統制・リスクマネジメント・セキュリティ業務に従事しています。

自身の学びも兼ねて、縁があって内部監査を始めよう/既にしている方達に少しでも役に立つ、現場の情報をお伝えしたいと思います。

【保有資格】
・公認内部監査人(CIA)
・公認情報システム監査人(CISA)
・内部統制評価指導士(CCSA)
・公認情報セキュリティマネージャー(CISM)
・Certified Data Privacy Solutions Engineer(CDPSE)

【所属】
・日本内部監査協会会員
・ISACA東京支部会員

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